第6章 植物学研究

明治23年10月発行の『植物学雑誌』に、「泰西植物家諸氏ニ告グ」と題する矢田部の文章が掲載されています。英語で書かれたこの文章は、これまで大学に集めた標本と文献を土台として、欧米の研究者に頼らず植物の記載を始めることを宣言するものでした。矢田部は実際、同誌に論文を立て続けに発表し、それと並行して、『日本植物図解』『日本植物編』といった書籍の出版に乗り出しました。

しかしその矢先、矢田部は唐突に、大学から非職(休職)を命じられてしまいます。国際的な植物学研究の世界に参画しようとした矢田部の望みはこれによって断ち切られ、後進に後を託すことになったのでした。

「新たな日本のガンピ属植物」/“A New Japanese Wikstroemia”

明治24年頃/ca. 1891

矢田部が新種を記載した論文の原稿。記載された植物はヒオウ(ミヤマガンピ)。


所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science

グレーに宛てた手紙/Letter to Asa Gray

明治24年/1891

エーサ・グレーはアメリカの代表的な植物学者。この手紙では、主に『植物学雑誌』などの出版物の交換を申し入れている。


所蔵 : ハーバード大学グレー標本館図書室/The Gray Herbarium Library, Harvard University

『日本植物図解』図版校正刷/Proofs of Iconographia Florae Japonicae

明治24年頃/ca. 1891

『日本植物図解 第1冊第1号』(1891年)の校正刷りと見られるもの。矢田部による修正指示が書き込まれている。原画は画工の渡部鍬太郎が描いた。


所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science

『日本植物編』草稿/Manuscripts of Nihon Shokubutsu-hen

明治25年頃/ca. 1892

矢田部の遺作であり主著とも言える『日本植物編』(1900 年)については、複数の本文草稿が遺されている。本資料はそのうち、初期の下書きと思われるもの。


所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science

『日本植物編』挿図(65~79番)/Illustrations for Nihon Shokubutsu-hen, Nos. 65-79

明治25年頃/ca. 1892

同書に使用された図版についても、原画と見られるものが大量に遺されている。これらの図の作者は画工の西野猪久馬と見られる。


所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science