第3章 植物学教室の立ち上げ
帰国した矢田部は東京開成学校の教授に任用され、同校が東京医学校と合併して東京大学が設立されると、そのまま理学部教授となりました(明治10年)。大学の授業では植物の形態・分類・生理などを講義し、さらに欧米の代表的な初等教科書の翻訳出版を手がけることで、知識の輸入を図りました。
それと並んで、もしくはそれ以上に熱心に取り組んだのは、植物学研究の基盤となる標本の収集です。のちに二代目の教授となった松村任三によれば、採集を目的とした矢田部の全国各地への出張は数十回に及び、加えて毎週日曜日にも東京近郊で植物を集めたといいます。日本の伝統的な本草学と異なり、西洋流の植物学には標本室が必要だったのです。
「植物分類学 第1巻」/“Systematic Botany. Vol. I”
年代不詳/unknown
矢田部が東京大学で行った講義のノートと思われるもの。この分類学のシリーズは全部で8冊あり、植物の科それぞれを詳しく説明する。
所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science
フーカー『植物学初歩』訳稿/Translation Manuscript of J.D. Hooker’s Botany
明治24年頃/ca. 1891
イギリスの植物学者フーカーの初等教科書を翻訳した原稿。日本語訳は1891(明治24)年に出版された。
所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science
「東京大学で研究された植物の目録 1878A」/“LIST OF PLANTS; Studied at Tokio Daigaku 1878 A”
明治10年/1878
植物採集の記録ノート。小石川植物園などで採集した植物を記している。
所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science
北海道旅行日誌/Diary of the Trip to Hokkaido
明治10年/1878
北海道への標本採集旅行の記録。この旅行は、大学の同僚だったお雇い外国人、E・モースが企画した。
所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science
『帝国大学理科大学植物標品目録』/Catalogue of Plants in the Herbarium of the College of Science, Imperial University
明治19年/1886
東大植物学教室が収集した標本の目録。編集は主として松村任三がおこない、矢田部は監督者として序文を寄せる。
所蔵 : 国立国会図書館/National Diet Library