第4章 新体詩とローマ字運動
新時代の知識人として、矢田部が大学の本務以外でまず意欲的に取り組んだことのひとつに、新体詩の発表やローマ字運動といった、いわゆる国語・国字改良運動があります。
外山正一・井上哲次郎とともに発表した『新体詩抄』は、西洋詩(poetry)を翻訳・模倣することにより、旧来の漢詩や和歌とは異なる新しい韻文の確立をめざしたもの。そのきっかけは、矢田部によるハムレットの一節の試訳にあったといいます。漢字や仮名を廃し、日本語の文字としてローマ字を採用すべきだとするローマ字運動においても、運動を主唱する羅馬字会の幹事を矢田部が務め、『Romaji zasshi』(羅馬字雑誌)の編集に携わりました。
「ハムレット中の一段」/“An act from Hamlet”
明治15年/1882
『ハムレット』の一部を試訳したもの。「尚今居士」(しょうこんこじ)は矢田部の筆名で、「尚今」(今をとうとぶ)という言葉に矢田部の姿勢が表れている。
所蔵 : 人間文化研究機構国立国語研究所/National Institute for Japanese Language and Linguistics
『新体詩抄 初編』/Shintaishi-sho. First Part (A Selection of New Style Poetry)
明治15年/1882
全19編の詩のうち、9編が矢田部による。6編は英語からの翻訳詩、3編は自作詩である。
所蔵 : 国立国会図書館/National Diet Library
『羅馬字雑誌』第1冊/Rōmaji Zassi. Vol. 1
明治20年/1887
矢田部が幹事を務めた「羅馬字会」の雑誌。すべてローマ字で書かれている。
所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science
「モルチャントオブベニスの二の舞」/“The Same Error as That of the Merchant of Venice”
明治23年か/ca. 1890
『羅馬字雑誌』に掲載されたエッセイの一例。出版されたものはローマ字だが、原稿は漢字交じりカタカナ書きで書かれている。
所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science