第2章 アメリカ留学

明治3(1870)年、矢田部は駐米公使として赴任する森有礼に随行して、アメリカに渡りました。外務省の役人という身分を得ての渡米でしたが、本当の目的は当初から勉学にあったようです。現地での受験勉強のあと、矢田部はコーネル大学に日本人として初めて入学し、4年間の科学課程を修めました。

大学では語学や歴史から数学、自然科学に至る幅広い教養を身につけましたが、中でも専門として選んだのが植物学です。矢田部は大学での授業に加えて、臨海実験所でのサマースクールにも参加したと伝えられ、卒業論文のテーマは東海岸の海藻でした。こうしたアメリカでの修学や経験が、帰国後の活動の基礎となりました。

「三次元の解析幾何」/“Analytical Geometry of Three Dimensions”

明治7年か/ca. 1874

コーネル大学での受講ノートのひとつ。矢田部はもともと数学が得意だったと伝えられている。


所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science

ウェルギリウス『アエネーイス』英訳および注解/Virgil's Aeneid: English Translation With Explanatory Notes

明治4年/1871

アメリカで購入した書籍のひとつ。教養として西洋古典を学ぼうとしたことがうかがえる。


所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science

「植物生理学」/“Vegetable Physiology”

明治8年か/ca. 1875

コーネル大学での受講ノートのひとつ。矢田部はアメリカで初めて植物学に接した。しかし、植物学を専門として選んだ理由ははっきりしていない。


所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science

「生物進化論 二」/“Theory of Evolution of Organisms, II”

年代不詳/unknown

留学中の矢田部は、進化論についても大いに勉強したと伝えられている。本資料はおそらく帰国後のものだが、矢田部の進化論への関心を示している。


所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science

「近代における知識の進歩の概観」/“A Survey of the Modern Progress in Knowledge”

明治9年か/ca. 1876

コーネル大学の卒業祝賀会で、矢田部は作文に秀でた者として 「エッセイスト」に選ばれた。そこで発表した論説の原稿である。


所蔵 : 国立科学博物館/National Museum of Nature and Science